事業再生を行う企業を金融機関はどう見ているのでしょうか。事業再生の対象企業に対し、以前から金融機関は貸付金という形で融資を行っている場合が大半です。
この記事では金融機関が企業の事業再生をどう評価しているのか?ということを解説していきます。
金融機関から見た再生支援対象となりえるかの資質を評価
一般的に経営不振企業が再生対象企業になり得るかどうかは、問題企業の業種について構造的に個別企業の経営努力ではいかんともしがたいか否かの判断を行った上で次の4つの要素から判断することになります。
①経営者・・・企業再生への私欲や資質
変わることができるか・・・経営者が見栄やしがらみを断ち切れるかどうかが重要
信頼に値する人か・・・公私混同やその場限りのウソをつく人は論外
後継者はいるか・・・社長が高齢(60歳以上)の場合、後継者はいるかどうかを確認する
②存立基盤・・・収益性のある事業なのか
存立基盤は収益性のある事業か確認します。貸したお金と利息をしっかり回収できるのか?という視点から企業が事業から獲得できる絶対額がポイントとなります。
③経済合理性・・・債務者区分のランクアップしていけるのか
経済合理性は、債務者区分がランクアップしていけるのか?という視点で評価することになります。上位遷移(ランクアップ)の条件としては3年以内の経常利益の黒字化、3年以内の債務超過解消、10年以内の債務の弁済があります。
後程解説しますが、債務者区分は金融機関が金融庁の金融検査マニュアルや独自の信用リスク格付け制度などに基づき定めているもので、金融機関が自主的に定めています。
中小企業の場合、5年以内の債務超過解消、15年以内の債務の弁済でも認められることが多いです。
④痛みの共有・・・金融機関に協力してほしいという姿勢が必要
事業再生を行う企業が、少なくとも非事業用資産を売却して少しでも債務を軽くするから何とか金融機関に協力してほしいという姿勢が見られるかが必要です。
・債務者区分が「要管理先」より下と評価された企業に対して金融機関が貸出条件の緩和等金融支援を行わなければ再生は難しい。
・経営者一族や株主、従業員、取引先、他金融機関の協力を得られるかがポイントです。
債務者区分から再生が間に合う状況なのかを評価
金融機関は企業にお金を貸している訳なので、お金を借りている企業は債務者ということになります。金融機関は金融検査マニュアルで債務者を以下の表のように区分しています。
金融機関が自主的に定める金融検査マニュアルによる債務者区分例
債務者区分 | 債権区分 | ||
正常先 | 業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる先 | ||
要注意先 | その他 | ・元本返済もしくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題がある先 ・業況が低調な意思は不安定な先 ・財務内容に問題がある先 など近子の管理に注意を要する債務者 |
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要管理先 | 要注意先のうち、債券の全部または一部が要管理先である債務者 ここで、要管理債権とは要注意先に対する債権のうち3ヶ月以上の延滞債権および貸出条件緩和債権(経済的困難に陥った債務者の再建または支援を図り、当該債権の回収を促進すること等を目的に、債務者に有利な一定の譲歩を与える約定条件の改定等を行った貸出債権)をいう |
要管理債権 | |
破綻懸念先 | 現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者 | 危険債権 | |
実質破綻先 | 法的、形式的な破綻状態の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態で再建の見込みが立たず実質破破綻陥っている債務者 | 破産更生債権及びこれに準ずる債権 | |
破綻先 | 法的、形式的な経営負担の事実が発生している債務者 |
金融機関が「要注意先」、「要管理先」、「破綻懸念先」と判断していれば、事業再生に協力してくれる可能性があります。しかし、「実質破綻先」、「破綻先」と判断されてしまうと協力を得られる可能性は低いと言わざるを得ません。
要注意先に対する再生
要注意先は業況が低調ないし不安定な債務者(恒常的赤字)、財務内容に問題がある(実質債務超過)状態にある債務者です。
→「要注意先」と判定している債務者企業に対して金融機関は、「経営改善型の自主再建」を図って欲しいと考えています。よって、再生は業務リストラ、財務リストラ、事業リストラにより進めていくことになります。
要管理先に対する再生
恒常的赤字、実質債務超過に加えて金利減免、金利支払いの棚上げ等が既に行われており、貸出条件に問題があると判断されている債務者。または、元本返済もしくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者です。
→金融機関は、3ヶ月以上の延滞債権は業務リストラ、財務リストラ、事業リストラの観点から抜本的かつ総合的に判断しますが、特に当面のキャッシュフローを生み出すべく財務リストラに早急に手をつけなければならないと考えています。
大企業であればメインバンクを中心とした債権放棄やDES(デット・エクイティ・スワップ)のでの支援も検討しはじめます。しかし、債権放棄やDESは金融機関の負担が大きいので、債務者企業に「経営改革型の自主再建」を期待しています。それは事業の転換など「抜本的な」再生計画を待っているということです。
破綻懸念先に対する再生
現状事業を継続しているか、実質債務超過の状態に陥っており、業況が著しく低調で貸出金が延滞状態にあるなど、元本及び利息の最終の回収について重大な懸念があり、したがって損失の発生の可能性が高い状態で今後経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者です。
この破綻懸念先に対する再生の再生計画については最も厳しく評価します。
→金融機関は債務者企業が営業キャッシュフローを生む事業を有しているかどうか、その成長性はどうかで判断します。具体的には以下の2つに当てはめて検討していきます。
キャッシュフローを生まず、貸借対照表も著しい債務超過である場合
・債務者企業を説得して任意整理をしていくか破産の申立をしてもらう。
・説得に時間がかかる場合は担保不動産等を売却。
・マル保融資は代位弁済してもらい、無担保部分の債権は第三者へ売却。
・財産隠しや特定の債権者への優先的弁済等の阻害行為が見受けられる場合には、売掛債権、賃料再検討の仮差押えや競売。悪質な場合は債権者等の破産申立等を検討する。
キャッシュフローを生む事業を有している場合
・清算するよりは支援し、再生させた方が経済合理性が高いという説明を求める。
・私利私欲を捨てられない経営者の企業を再生するには、株主決議に代わるプレパッケージ型の民事再生法を申請するなどして、事業譲渡に関する裁判所の許可を得ることを検討する。
金融機関の支援を受けるには経済合理性と経営者
金融機関から再生支援を得るための4つの要素と債務者区分による評価を見ていきました。
金融機関にとって再生は、長期的に安定した利益を上げられる企業への転換を意味します。倒産させるより、企業を存続させて取引を継続した方が得策だという経済合理性が必要です。そして、一番大事なカギは経営者です。存立基盤や痛みの共有も必要ですが、再生可否の7~8割は経営者次第ということです。
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