総合問題~M&Aの提案とアドバイザリー報酬~
この記事では、事業承継アドバイザーの総合問題について解説していきます。事業承継にM&Aを提案した場合の報酬についての問題について解説していきます。
取引先経営者から、「後継者がいない、まだ決まっていない」という言葉が出たから、M&Aを勧めるのも一考です。「まだ、そこまでは」という回答があれば、別の提案も可能だと思います。
後継者がいない、決まっていない場合の事業承継の出口は、以下に分類されます。
・M&A(第三者譲渡)
・M&A(MBO、EBO)
・世代飛越承継
・後継者候補(ご子息等)が成長してから決める
取引金融機関が、取引先のM&Aに関与しないことの機会損失
・アドバイザリーフィーの収受する機会の損失
・メインバンク(サブバンク)の地位喪失
・知らない間に譲渡が実行され、メインバンクが他行に移る、融資が弁済される
・自行取引先の買い手を紹介されば可能であったはずの融資機会喪失
M&Aの交渉過程で専門的なアドバイスを提供する者をアドバイザーといい、M&Aの仲介を依頼する企業(または個人)とアドバイザーとの間で結ぶ契約をアドバイザリー契約といいます。
今や、後継者のいない法人は、全体の5割に迫る勢いです。取引先企業の事業承継の出口の約半分がM&Aだと仮定すると、それに関与しないことの機会損失がいかに大きいかが分かります。M&Aに関与しないことは、長い目で見れば自行の存続にも、大きな影響を及ぼします。逆に関与できれば大きな収益を獲得できます。
例.企業価値をDCF法で算定してみよう
会社の企業価値をDCF法で算定してみましょう。A社を、M&A候補先に、DCF法による企業価値の9割で譲渡できと仮定。その場合のアドバイザー報酬がどれほどになるか検討してみましょう。
A社は電気工事業を営んでおり、財務諸表は以下の通りで割引率は10%を利用。
(40,000(営業利益)×(1-40%(実効税率))÷(1+10%))+(40,000(営業利益)×(1-40%(実効税率))÷(1-10%)²)+(40,000(営業利益)×(1-40%(実効税率))÷(1-10%)³)+・・・・・・=240,000
例は、割引率は10%を利用しましたが厳密には割引率は通常は対象会社の負債コストと資本コストを加重平均を使用します。
資本コスト(WACC:Weighted Average Cost of Capital)を用います。
資本コスト×資本の時価÷(資本の時価+有利子負債の時価)+(負債コスト×(1-実効税率))×有利子負債の時価÷(資本の時価+有利子負債の時価)
このとき、通常負債コストは対象会社の調達レートを用いるが、資本コストは、リスク資産の均衡市場価格に関するCAPM(capital Asset pricing Model、資本資産評価モデル)理論に基づき投資家が要求するレート(資本コスト)を推定計算するのが、近時一般的な手法となっています。
(1)CAPM理論に基づく資本コストの計算例
株主資本コスト=リスクフリーレート+株式リスクプレミアム+β値
①リスクフリーレート
通常10年国債の利回りを用いるのが一般的
②株式リスクプレミアム
投資家が危険資産である株式に投資する場合に求めているリターンを意味します。通常このリスプレミアムは直接的には入手不可能なので、過年度の株式市場全体に動きから推定計算することになります。(この株式市場全体の動きの集計値はイボットソン・アソシエイツ・ジャパンより購入することができます)
③β値
株式市場全体の動きに対する個別銘柄の株価感応度であり、市場全体のリスクプレミアムに個別要因を加味して対象企業の株式リスクプレミアムを算定します。例えば、バイオベンチャー企業に投資する場合は株式マーケットから類似する上場会社を選定しこれらの会社のβ値を用いて、対象会社のβ値を推定します。(上場企業のβ値はBloombergより入手することができます)この類似する会社より推計したβ値と市場全体のリスクプレミアムを乗じて対象会社へ投資する場合の株式リスクプレミアムを推定計算します。
株式価値の算定
事業価値+現預金-有利子負債=株式価値=
240,000千円+150,000千円(現預金残高)-50,000千円(有利子負債残高)=340,000千円
M&A実行価額340,000千円×90%=306,000千円
(2)レーマン方式によるアドバイザリー報酬例
レーマン方式とは、移動した資産の価格に対して一定の割合を乗じて算出する方式で、M&A仲介の成功報酬における一般的な計算方法です。
報酬例
移動する対価の額 | 報酬割合 |
5億円以下の部分 | 5%(ただし最低額20百万円) |
5億円超~10億円以下の部分 | 4% |
10億円超~50億円以下の部分 | 3% |
50億円超~100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
①売り手から収受可能な報酬額
306,000千円が移動対価であるため以下の計算式なります。
・5億円以下の部分・・・306,000千円×5%=15,300千円<=20,000千円(最低報酬額)
→20,000千円
②買い手から収受可能な報酬額
20,000千円(算式は同上)
※レーマン方式による手数料は、M&Aアドバイザリー業で一般的に使用されますが、当然クライアントとの交渉により増減することもありえます。
③買い手に対する融資可能額(最大)
306,000千円+20,000千円(手数料相当額)=326,000千円
④売り手に対する既存融資額の防衛額
50,000千円
回答のポイント
今回は事業承継アドバイザーが、M&Aを仲介しアドバイザリー報酬を受け取る場合を解説してきました。外部との取引価額は、DCF法により算定された価格をもとに交渉する場合が一般的なのでこのDCF法は理解しておく必要があります。M&Aディール(投資案件)がまとまった場合は、売手・買手双方から多額の手数料を収受できる可能性の他、融資の拡大の機会もあるので金融機関も積極的に狙っています。問題集や通信講座のレポートを分析すると、アドバイザリー報酬の計算問題は地域金融機関が地域の産業をどう支援するかという点や地方再生の取り組みと絡めて出題される傾向にあります。
・事業承継の手法の選択肢として、外部への承継(M&A)も考慮します。
・外部との取引価額は、DCF法により算定された価格をもとに交渉されることが多いです。
・M&Aディール(投資案件)がまとまった場合は、売手・買手双方から多額の手数料を収受できる可能性の他、融資の拡大の機会もあります。
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