総合問題②会社の株式の評価を下げて事業承継を容易にする

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総合問題~法人の事業承継~

今回は法人の事業承継の総合問題について説き方を解説していこうと思います。具体的な出題方法としては、経営者が「後継者に早く株式を譲りたいが、しかし株価が高い」という相談に事業承継アドバイザーが相談に乗るというような会話形式で進んでいきます。

おさらい・事業承継とは?

特に同族企業の場合、資本と経営は分離されていないので、会社支配の根源である株式を後継者が支配できる状態にすることと、後継者が経営者としてふさわしい人格と能力を備えるよう教育することが求められます。

支配権の承継の方法

次に後継者が株式を取得する方法を考えます。後継者が取得する方法は以下の2つしかありません。

相続による承継 経営者の死亡に伴い、後継者が相続で株式を取得する。
生前承継 自社株(経営者が保有する株式)を贈与または譲渡によって、生前に経営権を後継者に移転する。

株式を移転するコスト

次に株式を相続によって移転する場合、贈与によって移転する場合、譲渡によって移転する場合で株式を移転するコストがどれくらいになるか考えてみます。

相続による移転 相続人に相続税が課税される。最高55%
贈与による移転 受贈者に贈与税が課税される。最高55%
譲渡による移転 譲渡人に譲渡税が課税される。譲渡益に対して一律20%、譲受人は株式取得資金の調達が必要。

移転のコストを最小にする

後継者に株式を移転するに当たり、上記のどの方法で株式を移転するにせよ、株価が低ければ税のコストは安くなる。株価の計算ロジックを知ることによって、株価を下げることが可能となります。

純資産価額の算出

1株当たり純資産価額=A-B((A-B)-(C-D))×42%=A-B+含み益×0.58

A:相続税評価額による資産総額
B:相続税評価額による負債総額
C:帳簿価額による資産総額
D:帳簿価額による負債総額

純資産価額を図解すると、以下の通り(網掛けの部分が純資産の総額。これを発行済株式数で割って得られる金額が1株当たり純資産価額)

大文字(A~D)は、同業の上場企業の業績の平均値として国税庁が計算して2ヶ月に1度公表しています。(類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等)。b~dは、評価対象会社の決算数値になります。すなわち、この小文字の部分が、各企業自身がコントロールできる部分で、この数値をどのように落とし込むかが、株価対策ということになります。

類似業種比準価額の算出

株価の算定

非上場会社の株価は純資産価額方式で算定した金額と、類似業種比準価額方式と純資産価額方式を掛け合わせた算定方法のいずれか低い方を選択すればよいということでしたよね。

忘れてしまった方はこちら↓をじっくり読み込んでください。

2-3.やっかいな計算問題!!非上場株式の評価手法 – 事業再生アドバイザー攻略体験記 (volosreit.com)

表にまとめるとこのようになります。

大会社 類似業種価額(S) 純資産価額(N) いずれか小さい方
中の大会社 S×0.9+N×0.1 N いずれか小さい方
中の中会社 S×0.75+N×0.25 N いずれか小さい方
中の小会社 S×0.6+N×0.4 N いずれか小さい方
小会社 S×0.5+N×0.5 N いずれか小さい方

ここまでくると、株価を下げるポイントは以下の2つであることに気づいたのではないでしょうか。

会社の規模と原則的評価
上の表の通り会社の規模が大きければS(類似業種比準価額)の影響を大きく受けることになります。自社の配当が低くする、課税所得が低くする、純資産価額を低くするこれらの方法で類似業種比準価額を下げることによって株価は下がります。

ここまでを踏まえて具体的に電気工事業を営んでいるA社の予算から株価対策を考えてみましょう。

この予算の利益比準割合と類似業種比準価額の推移を表したものが以下の表になります。

純資産価額の計算

①現時点
相続評価ベースの純資産=500,000千円(総資産)-300,000千円(総負債)=200,000千円
1株当たり純資産価額=200,000千円÷20,000株=10,000千円

②退職金支給後
相続評価ベースの純資産=467,580千円(総資産)-300,000千円(総負債)=167,580千円
1株当たり純資産価額=167,580千円÷20,000株=8,379千円
純資産価額は、当初から4年間は大きく変動しないが、退職金支給時に多少下落する。

類似業種比準価額の計算

①現時点

②退職金支給後

類似業種比準価額は、退職金支給時には、現状の8分の1まで下落する。

併用株価の計算

この会社の年間取引高と純資産・従業員から、会社の規模L=0.75と算定される。したがって併用株価は、

①現時点
1株当たり併用価額=類似業種比準価額×0.75+純資産価額×(1-0.75)
=5,011×0.75+10,000×(1-0.75)=6,258円

②退職金支給後
1株当たり併用価額=類似業種比準価額×0.75+純資産価額×(1-0.75)
=624×0.75+8,379×0.25=2,562円

株価が下がったら

設例では、1年目から株価は大幅に下落し、退職金支給直後はさらに下落します。したがって、株式を移転する時期は、株価対策を実行した翌年でも退職金支給後でも良いと考えられます。ただし、類似業種の株価等の指標は、景気によって大きく変動するので、先行きが景気がいいと考えられる場合には、対策実行直後に株式の移転を行う場合もあります。

①譲渡
社長が所有している株式の取得価額が1株500円であると仮定すると、譲渡税は
譲渡益=46,116千円-9,000千円=37,116千円
譲渡税=7,423千円(所得税15%、住民税5%)

②一括贈与
贈与税=(46,116千円-1,100千円)×55%-6,400千円=18,359千円

③相続税精算課税の場合
贈与税=(46,116千円-25,00千円)×20%-=4,223千円

どの方法を選択するかは、経営者と後継者、その他家族等の置かれている状況を勘案して決める。

回答のポイント

今回は事業承継アドバイザーが会社の株式評価を下げることを提案した場合ついて解説していきました。事業承継アドバイザーが金融機関であれば、これによって相続発生に伴う顧客の預金減防止(納税資金としての流出)、取引先の財務の健全性の確保を図ることもできます。株式を譲渡する場合後継者に買取資金を融資すること、株式を贈与する場合は後継者に贈与税納税資金を融資するきっかけができます。

金融機関が事業承継で得る営業機会
・相続発生に伴う顧客の預金減防止(納税資金としての流出)
・取引先の財務の健全性の確保
・生命保険の販売(法人向け商品)
・株式を譲渡する場合、後継者に買取資金融資
・株式を贈与する場合、後継者に贈与税納税資金融資

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